建物は、イニシャルコストよりもランニングコストのほうが高くつく
一般に、初期建設費(イニシャルコスト)は、維持保全等にかかるコスト(ランニングコスト)を含めた建物の生涯コスト全体の1/4程度であると言われています。つまり、ランニングコストが3/4、大半を占めていることになります。
発注者が建築プロジェクトを起案し、実行する際に、どうしても、イニシャルコストである工事費や設計料に目を向けがちですが、ランニングコストを含めたトータルの生涯コストである、LCC(ライフサイクルコスト)を考慮することが、事業上、極めて重要となります。では、LCCを計算するにはどうすればよいのでしょうか。以下に説明します。
LCCの計算方法
LCCに要する費用には、設計料、工事費といった初期にかかるもの、建物完成後に発生する修繕・改修、光熱費をはじめ、建物の運用に必要な維持保全管理費用などといった運用段階でかかるもの、最終的にかかる解体費用などが挙げられます。
当然ながら、これらの費用(あるいは収入)はいずれも発生する時点が異なるため、LCCの計算にあたっては、各費用を同じ時点(企画・計画時点)に統一した上で価値判断することが求められます。各費用の時間的な差を埋める作業、具体的には、将来にかかる費用はその不確定要素に相当する額を割り引いた上で、現在価値を算定するということになります。N年後の金額を現在価値に換算するということです。一般に、割引現在価値といわれる、一定の割引率を用いて将来のキャッシュフローを現在の価値に引き直す手法を取ります。
LCCの予測が難しい理由
- 社会的劣化・機能的劣化についての予測が難しい 社会環境やニーズの変化によって、建物は陳腐化しますが、その変化の内容や度合い、タイミングなどをあらかじめ予測することは極めて困難です。
- 物理的劣化についての予測が難しい 建物の仕様、運用方法、地域特性、その他予期せぬ災害等により、修繕・更新にかかる費用の変動幅が大きく、その設定が難しくなります。
大事なのは、イニシャルコストにとらわれないこと
以上の通り、LCCの算定には、様々な難しさが伴いますが、発注者として押さえておくべきポイントは、冒頭で述べた通り、建物にかかるコストの大半は、建設工事費などのイニシャルコストではなく、その後の運用段階でかかるランニングコストであるということです。企画・計画段階から、設計者の知見も活かしながら、ランニングコストをいかにして抑えるかを検討していくことが非常に重要となります。そのために、具体的にかかるランニングコストをシミュレーションし、設計案によって、それらがどのように変動するかを鑑み、設計内容を決定するということが必要です。イニシャルコストが少々高くついても、ランニングコストを抑えられるのであれば、LCC全体で考えれば有利になる、ということも多く見受けられます。