建築プロジェクトにおける工事費の算出に際して、基本計画段階などの上流フェーズでは、過去の積算実績データ(内訳明細書等)が活用されるケースが散見されます。
建築コストを算定するにあたって必要となる設計図書がある程度そろう基本設計段階以降については、図面を元に、数量を拾い出し、適切な単価を掛けることで工事費を導き出しますが、上流段階では、図面がまだ作成されていないために、別の手法を用いて工事費を予測することとなります。その場合に活用されることがあるのが、過去の積算実績データです。
積算実績データは、実際に過去に実在したプロジェクトであるために、大いに参考になるのは事実ですが、一方で建物は個別性が強く基本的には一品生産であるために、必要に応じて適切な補正をかけることが必要となります。
年度による補正
実績データの建物が建設された年度と現在の物価差を正確に把握し、その差異を補正する必要があります。資材のみならず労務コストについても、景気やその他の要因によって大きく変動することがありますので、注意が必要です。
地域による補正
まずは都道府県などといった大きな違いをとらえる必要があります。東京や大阪などといった大都市圏か否か、積雪の有無などにより、資材のみならず労務費が大きく変動します。島しょ部などは運搬に相当なコストがかかるため注意を要します。
都道府県レベルの差異に加えて、市街地とそうでない場合の差など、立地条件によってもコストが変わります。繁華街などでは、資材の搬入に使う道路の幅などによって、運搬にかかる手間・コストが変わります。
その他
同一の建物用途を前提とした既存の類似データを活用することを前提に、ここまで説明をしてきましたが、さらに、以下項目についても、考慮する必要があります。
規模による補正・・・延床面積の違いはどれくらいか(大きいほど面積当たり単価は下がる)
形態による補正・・・階数の違い(一般に5-7階程度が面積あたりの単価が低い)、平面形状の違い(正方形に近い方が面積あたりの単価は下がる)、階高による違い(階高が低いほうが面積あたりの単価が低い)など
構造による補正・・・
RC造、SRC造、S造、その他ハイブリッド構造、免震・制振など
建物グレードによる補正・・・
仕上・設備等の仕様差など
地盤による補正・・・
杭の要・不要、地面が傾斜しているかなど